豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
電話を手に、しばらく宙を見続けた。それから、はっと我に返り「書かなくちゃ」と声に出す。
すぐには決められない問題だ。
自分の人生の問題。
手元のスマホを見る。思わず写真を開いた。
ここにいた時の、孝志の姿。
「あの頃、ミツが好きだった」
孝志は光恵を思いながら、この場所にいたんだ。毎日一緒にご飯をたべて、運動して、くだらない話をして、笑って。あの時、自分の気持ちに気づけていたら、違った今があったに違いない。
光恵は頭を振る。そんな思い出に浸っても仕方ないのに。でもこの場所にいると、どうしても小太りな孝志の姿が浮かんで来てしまう。
「ああ、もうっ。全然集中できない」
光恵は頭をかきむしった。
「稽古場いこう。ここより、集中できるはず。すぐにでも書き終わらなくちゃいけないんだから」
光恵は自分にそう言い聞かせると、コンピュータを鞄に閉まって、アパートから外に出た。