豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
光恵はその空気を吹き飛ばすような明るい声を出した。
「あの小デブが、信じらんない」
「小デブ小デブって、言うなよ」
孝志が笑う。
「だって、ほんとにそうだった。証拠写真だって持ってる」
「消して、それ」
「やだ。小デブ、ほっとするもん」
「なんだよ、それ」
「芸能人は緊張する」
「俳優って呼んで」
「へたくそなキスをしてた小デブが、あんなすごい映画を取るなんて……」
光恵はそう言ってからすぐ、自分の言葉に後悔する。
自分で地雷を踏んでどうするんだ。
焦る気持ちから、声がうわずった。
余計なことばかり口から出てしまう。
「まったく、どのくらい練習したんだか。想像したら引いちゃうよ。相手が誰か知らないけれど、かわいそうになっちゃう」
孝志が肘をついて、身体を半分起こした。
光恵はびくっと緊張する。
「たくさん練習したよ。仕事を失敗する訳にいかなかったから」
光恵の右上から声が降りてくる。
光恵は目を合わせないように、わざと左を向いた。