豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
稽古場につくと、まっすぐ自分の席に着いた。誰とも話したくないし、誰の顔も見たくない。
特にあの二人。別世界に住むあの人たちを、自分のテリトリーから閉め出したかった。
けれど、修行僧のように無の境地を求めていた光恵に、無情にも声がかかった。
「光恵さん」
ゆうみが声をかけた。
光恵は顔を上げ、彼女の美しい顔を見た。昨日瞳の中に見た感情は、今日は完璧に隠されている。光恵は小さく息を吸った。
「昨日のことなら……」
まるで戦いを挑むように、光恵はストレートに切り出した。
もう、こんなごたごた、うんざり。
わたしを放っておいて。
するとゆうみが首を振った。
勢いづいていた光恵は、その反応に肩すかしをくらう。
「光恵さん、脚本の改訂には、もう手をつけられましたか?」
なんだ、催促?
「いえ、まだ」
「じゃあ、そのままで」
ゆうみが言う。
「わたし、光恵さんのこの本、好きです。変えたくない」
ゆうみの瞳が光る。
「だから、必ず、わたしが証明します。この脚本がベストだと」
ゆうみはそう言うと、光恵にくるりと背を向けて、三池が座っている机と向かった。