豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「俺が忘れさせます」
輝の言葉が、頭の中に残っている。
なぜあのときに「NO」と言わなかったんだろう。
光恵は役者の輪の中にいる孝志の顔を見つめた。穏やかに微笑みながら、隣の役者と話している。かつて彼を子どもっぽいと思ったのは、気のせいだったのかもしれない。いつの間にか彼は、魅力的な大人の男になった。
一方輝は、不服そうな顔を隠そうともしない。ちらちらと孝志を見ては、不機嫌そうな表情を浮かべる。
「少し、考えさせて」
光恵はそう答えていた。
輝はまだ二十代前半。歳の差がありすぎるし、光恵にとって輝は、まだ少年にすぎない。
「誰かに頼ったりなんかしちゃいけないのに。弱いなわたし」
光恵はそういうと、仕事にとりかかった。