豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「かわいい後輩、かな」
「かわいい後輩に、テーブルの下で手を握らせたりするんだ」
「……また、意地悪しようとしてる?」
「どうかな」
孝志はワインを光恵のグラスに注ぎ足す。光恵はそれをぐいっと飲んだ。
「野島はいい役者だ。まだまだ伸びると思う」
「そう思う?」
「ただ、あからさまに敵対心を見せるから、からかいたくなるな」
「……ひどいのね」
孝志が光恵の瞳を見つめる。
もとの関係を求めているなら、わたしの瞳をこんなにも見つめてはいけない。
そんなこと、昔の孝志ならしなかったはず。
孝志は立ち上がり、テーブルに手をついて身をかがめる。
そのまま光恵の唇に、そっとキスをした。
再び席に座ると、孝志は何もなかったように、グラスを手に取った。
「……元の通りにしたいんじゃないの?」
光恵は震える手を握りしめた。涙が滲むのを止めることができない。
「こんな風に、気軽にキスってするものなの? 孝志にはたいしたことじゃないかもしれないけど、わたしは違う。あなたとは違うの」
「……ミツ」
「元通りって言ってる側から、訳の分からないことばかりして、混乱させて。いったい……どういう、つもりなんだか」
光恵は席を立った。
孝志が光恵の腕を握る。
「離して」
「ミツ」
「離してってば!!!」
光恵は鞄を手に取ると、店を走り出る。
その日は一晩中、一睡もできなかった。