豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「ファンタ……」
はあはあと肩で息をしながら、小さくつぶやく。
「そうだね」
光恵は孝志の肩をなだめるようにぽんぽん叩いて、走り続けるよう促した。
「ぶどう……ファンタ」
「はいはい」
「飲みたい」
「そうだね」
「飲みたい」
「分かるよ」
「ふぁんたああああああああああ……」
孝志は頭をもしゃもしゃとかきながら、叫び声をあげた。電線に止まっていた可愛い朝の小鳥達が、びっくりして空へと飛び立つ。
「我慢! 走る!」
「鬼!!!」
「舞台のため!!!」
「ちょっとぐらいいいじゃないか!!!」
「そのちょっとが、決壊を引き起こすの! あとちょっとだから! 初日まであと二週間弱だよ! 追い込みだよ!」
孝志はしぶしぶ走り出す。
「ぶどう。ぶどう。ぶどう。ぶどう」
念仏のように唱えてる。
汗だくで、目はうつろ。
登校中の女子学生が、変質者を見るような目で見ていた。
光恵は他人の振りをしたい気持ちを必死に押さえ、孝志に語りかけた。
「終わったら、ポテトチップス食べていいから。ファンタも飲んでいいよ」
「ぶどうがいい」
「わかった、ぶどうね」
光恵は頷いた。