豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
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ミツのいない稽古場はつまらない。
舞台はできあがりつつある。でも正直ぴんときていない自分がいた。うまくまとまっているけれど、なんていうか、突き抜ける部分がない。「おもしろかったね」と劇場を後にするけれど、三日後には話題にも上らない。そんな作品になってしまっているんじゃないだろうか。
光恵の本を読んだ時、胸がときめいた。登場人物たちが、笑い、泣き、喧嘩して、仲直りして、人の感情に疎かった主人公が、徐々に周囲の人たちの心に興味を持ち始める。幕があがる前の男と、幕が下りた後の男は、似ているけれど違う人物。自分は演じきれているんだろうか。
孝志は稽古場の壁にもたれて、脚本をもう一度読み込んだ。また違った何かを見つけられるかもしれない。
「おい、昼にしよう」
三池がみんなに声をかけた。
今日は出前のお弁当が届いている。段ボール箱に入っているお弁当を手に取って、劇団員達のおおきな輪の中に加わった。
斜め前に輝の姿があった。
無視する。
断固無視。
それでも輝が、孝志に威嚇のオーラを送っているのが、ひしひしと感じられた。
随分あからさまに感情を見せるんだな、あいつ。
ゆうみが隣に座って、興味深そうな顔をを向けて来た。孝志は肩をすくめて見せた。ここは大人の貫禄を見せつけてやらないと。