豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
部屋を出ると、自転車の側で孝志が不思議そうな顔をして光恵を見ている。
「はい、コレ」
光恵は孝志にボトルを渡した。孝志はキャップをひねると一気に飲み干す。それからまた光恵を不思議そうな顔をして凝視した。
「何?」
「ミツ……変な顔してる」
「……失礼ね」
「いや、そういうことじゃなくてさ……さっきのはがき」
孝志が光恵のポケットを指差した。
配慮に欠ける男だな、コイツ。
光恵は一つ軽く溜息をつくと「元カレ」と応えた。
「結婚するの?」
「みたいね」
「ミツはまだ、その彼が好きなの?」
孝志がそう訊ねると、光恵は「そんなわけない」と笑って返した。
「じゃあ、なんでそんな顔?」
光恵はアパートの壁にもたれた。
「大学四年の時、彼はわたしに就職活動をさせようと、必死になって説得した。『そんな先のわからない職業を選ぶな』って。わたしは本を書くことをあきらめられなかったから、頑として譲らなかった。劇団に雇われたときも、彼は喜ばなかった。『どうやって生きて行くんだ? この仕事で食べて行けるのは、ほんの一握りだろう?』そう言った」
光恵は彼のまじめそうで、それでいて真剣な顔を思い出した。