豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
通し稽古の後、三池に「おい、孝志」と呼ばれた。胸の奥が、きゅーっと縮む。言われることは分かってた。背中から輝の視線を感じる。
あいつ、絶対、笑ってる。
「孝志、どうした?」
三池が怪訝そうな顔をする。
「すみません」
孝志は謝るしかない。
「疲れてるなら、休んでもいいんだぞ」
「いえ……大丈夫です」
三池は腕を組み、孝志の顔をじっと見つめる。孝志はうつむいた。
「このままだと、お前、輝に食われるぞ」
「……」
「あいつ、ぐんと良くなった。観客はあいつに目を奪われる。わかってるよな」
「はい」
三池は一つ溜息をついた。
「役者は、演じている間に、なぜかキャラクターがずれてくることがある。そういう時は無理に掴もうとしないで、一度ゼロに戻るのも手だぞ。少し力を抜いてみたほうがいい。まあ、お前のことだから、もっとよくなって戻ってくると思うけどな」
三池は安心させるように、微笑んだ。