豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「彼は大手の家電メーカーに就職したけど、わたしはこんな暮らし。自然と距離ができて、別れたの。でもあれから三年経った今、何度も彼の言葉を思い出す。今は楽しいけれど、バイトをしなくちゃ食べて行けない。それで『わたしの仕事です』って言えるんだろうか。ずっと続けられるものなのだろうかって。そうやって不安になって、悩んでいるうちに、彼は結婚してしまった。彼はどんどん自分の人生を歩いているのに、わたしは?ってそう、思うんだよね」
光恵はぽかんとしている孝志に目をやった。
「ねえ、不安になったことない? 役者で食べて行けるのは、本当に選ばれた少ない人たちでしょ。これから結婚したいって思える女性に出会ったとき、自分じゃ食べさせられないかもって、心配にならない?」
孝志は首を傾げた。
「深く考えたことなかったな、そんなこと。俺、ミツみたいに大学出てないしなあ。選択肢も少ない」
そういって笑った。
「そっか、人それぞれだよね。なんだか、妙にいじけちゃった。まったくやんなっちゃうね、わたし」
光恵は笑って孝志の腕を軽く叩いた。
「クールダウンのつもりで歩いて帰って。このお弁当以外、食べちゃ駄目だからね。また稽古場で」
光恵が軽く手を上げると、孝志は頷いて歩き出した。
もしあの時、彼のプロポーズを受けていたら、どうなっていただろう。
夢をあきらめることができただろうか……。
光恵は空を見上げた。
空は真っ青。
夏が近づいている。
暑くなりそうだ。