豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
しばらくすると、本日一回目の通し稽古が始まった。
確かに、輝はすごかった。
光恵が以前見たときとは比べ物にならないぐらい、この役になりきり、視線を釘付けにさせた。
孝志は……。
あんなに焦っている孝志は、初めて。
光恵は信じられない思いで、舞台に立つ孝志を見る。動きの一つ一つに「これでいいんだろうか」という戸惑いが見られた。台本をまだ手に持っているかのように、すべてがぎこちない。
稽古が終了すると、孝志は逃げるように舞台を降りて、稽古場の外へ出て行く。
「ミツさん、俺、どうだった?」
タオルで顔を拭いながら、輝が近寄って来た。
「とてもよかったよ」
「でしょー。楽勝です」
にこにこと輝が笑う。
「おい、舞台は、一人が良くても駄目なんだ。調和も大切なんだぞ」
三池が憮然とした顔で言った。
「わかってます。でも、調和を乱してるのは、佐田さんの方です」
輝は悪びれる様子もなく、ずばっと言う。
「あの人、舞台を怖がってる」
輝が言った。
「あと、多分、他のことも」
輝はそういうと、意地悪そうに笑った。