豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「孝志のこと……」
光恵の胸がちくちくと痛む。


「そのときには気づいてなかったけど、すごく好きだった気がする」
光恵は言った。


言葉にすると、それは現実になる。


ああ、好きだった。
本当に孝志のことが好きだった。


「俺も今になって、あれが好きっていう気持ちなんだって、分かるようになった」
孝志が顔をゆがめるように笑った。


「ミツが大好きで、仕方がなかったんだ。あのとき『好き』って言えればよかった」
孝志が言う。


「そうだね、わたしも」
光恵は頷いた。


孝志は昔の感情に、かたをつけようとしているように見えた。
もう今は、二人とも、住む世界が違いすぎる。


孝志が光恵の顔を見て、それから光恵の身体を抱き寄せた。
ほのかに、甘い、チョコレートの香り。


「ミツの側にいるの、今は、俺じゃないんだな」


光恵も孝志の身体に手を回した。


「孝志はあまりにも遠い人になってしまった。大好きな孝志は、いなくなっちゃった」
光恵は言った。


目に涙が溢れてくる。


終わりだ、これで。
本当に終わりなんだ。

< 183 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop