豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「俺が出て行かなければ、違った今があったかもな」
光恵を腕に抱きながら、孝志が言う。
「……そうね」
孝志は無言のまま光恵を抱きしめ、それからそっと腕を放した。
光恵は立ち上がると「舞台、楽しみにしてる」と声をかける。まだぼんやりと座り続ける孝志に背を向けた。
かつて恋をした人は、まったくの別人になって目の前に現れた。
再会しなければ、もっと心穏やかにいられただろうに。
いつか忘れて、なつかしい思い出話として語れたかもしれないのに。
光恵は泣き出しそうになるのをぐっとこらえ、最後にもう一度振り返った。
孝志はポケットからキットカットの赤い袋を出していた。
無表情のまま、封を切って、口に入れる。
あ、一日一個のキットカット、まだ朝なのに、もう食べちゃった。
口をもぐもぐさせながら、二つ目をポケットから取り出した。
あれ? 一日一個じゃないの?
光恵は首を傾げた。
三つ目を出す。
食べる。
四つ目を出す。
食べる。
五つ目を出す。
食べる。
猛スピードでキットカットを食べだした。赤い袋が孝志の周りに散乱する。
六つ目。七つ目。八つ目。
光恵は思わず「ちょ、ちょ、ちょ、ポケットに何個はいってんの?」と駆け寄った。