豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
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授業が始まる十分前。夕方五時。
光恵の机からは、ビルの間に真っ赤な空が見える。人々は暖かくなった空気に頬を緩ませ、ゆっくりと歩いていた。
光恵は教科書とプリントをトントンとまとめて小脇にかかえる。それから立ち上がった。
「じゃあ、いってきます」
職員室に残る講師達に声をかけて、光恵は受付横の扉から部屋を出た。
子供達は大きな鞄を斜めがけにして、教室へ向かう階段をかけていく。このビルは五階建て。子供達はエレベータの利用を禁止されていた。
今日のクラスには、成績が中程度の子供達がいる。光恵は、国語という母国語の美しさを、偏差値に置き換えることのむなしさを感じていた。確かに子供達の学力は、有名校に入学するには少し足りないが、文章を読み、感じるこころは持ち合わせていて、それは子供達によって様々だ。問題を解くテクニックを教えることで、それが失われてしまうんじゃないか、そんな風にも思っていた。
「ミツ」
後ろから突然声をかけられて、光恵は思わず「うわっ」と声をあげた。
「びっくりした?」
振り向くと、孝志が廊下の真ん中に立っていた。
「どうしたの!?」
光恵は慌てて周りを見回した。
「会いに来たんだけど」
「でも、わたし、これから授業なの」
「いつ終わる?」
「えっと、夜九時、かな」
「長いなー」
孝志が子どものように口を尖らせた。