豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


台本を印刷していると、続々とスタッフが稽古場に入って来た。役者たちはみな、着ているものはジャージだけれど、背筋が伸び、笑顔が明るい。二ヶ月ぶりに舞台に立てる、その歓びに溢れているようだ。彼らは鞄をおくと、鏡の前でそれぞれストレッチを始めた。


「台本が楽しみでさ」
身体をぺたりと折り曲げている古株の役者が、光恵の顔を見て微笑む。
「ミツの話は、おもしろいよな」


「ありがとうございます」
光恵は頭をさげた。


稽古場が急激に騒がしくなってくる。光恵は印刷された台本を綴じながら、周りを見回した。
この劇団の規模はそれほど大きくないけれど、演劇ファンの間ではかなり有名だ。光恵も就職する前に、名前を聞いたことがあった。


「あいつがどんな風になってるか、俺、それも楽しみ」
一人の役者がそう言うと、はじけたような笑い声が稽古場に響く。


その笑い声の中、
「おはようございまーーーーーす」
と、大きな挨拶が入り口から聞こえた。


光恵が振り返ると、逆光を浴びて浮かび上がる、黒くまんまるな影。


「お久しぶりです」影が頭を下げる。


看板俳優、佐田孝志、だ。


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