豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


孝志は携帯でタクシーを呼び「すぐ来るから、エントランスで待ってよう」と光恵を促した。


まだ胸がどきどきしてる。
早くここから脱出したい。


玄関で靴を履こうとして身を屈めた時、廊下の隅に筒のようなものが落ちているのが目に入った。思わず手に取る。


口紅。


「これ……」
光恵は反射的に孝志にそれを見せた。


「あれ、ゆうみのかな? ありがとう、明日稽古場で渡しておく」
孝志は顔色を変えることなく、その口紅を自分のポケットに入れた。


孝志は段ボールを抱えたまま、スニーカーをつっかける。光恵はその後ろ姿をぼんやりと見つめた。


ゆうみさん、ここ来てるんだ。


脳裏に、少しだけ見た映画のベッドシーンが甦った。
相手の女優はゆうみに変わっている。


ずっと光恵を好きだったとしても、会わなかった間、誰とも恋をしなかった訳じゃない。
あのベッドシーンは、本当の経験なくしてはできないはず。


光恵は無意識に孝志の背中から目をそらした。


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