豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「最初、皆川さんを外してもらえばいい、そう考えていました。けれど佐田が首を振った。絶対に皆川さんの脚本で帰るのだと」
「……」
「佐田には忘れられない人がいる。それはわかっていました。激しい濡れ場のある作品を受けた後、突然『長期の休みが欲しい』と訴えたので」
そこで光恵は「え?」と声を上げる。
「佐田さんは、脚本の内容を知っていたんですか?」
「もちろん。読んでから仕事を受けるかどうか決めました」
でもあのとき、脚本を初めて読む、みたいに……。
どういうこと?
光恵の戸惑いをよそに、志賀は話し続ける。
「けれど彼は自制心を持って、これまでやってきた。どんなときでもプロフェッショナルとして、振る舞って来たんです。でもここにきて……彼の演技をご覧になれば分かりますよね。今、揺れている」
志賀は再びコーヒーを一口飲んだ。光恵は唇を噛んで、うつむく。
「この仕事を選んだ時、世界は激変します。周りの目も自分も変わるのです。それを受け入れないと、そのうち自分が駄目になる。佐田は……まだ、その変化を受け入れられていない。あなたに会って、それが一層強まったのだと思います。佐田が自分の変化を受け入れ、過去と決別するとき、もっといい役者になるはずです」
志賀は少し表情を緩め、少し首を傾げた。
「自分には関係ないことだと、そう思われています? それはそう、結局は佐田が決めることなんです。でも、周りが助けることはできる」
光恵は、手が震えそうになるのを、ぎゅっと握りしめて止めようとする。
「皆川さん、彼の新たなる成長を見たくありませんか? そっと彼の背中を押して『振り返るな』と、そう言うだけでいいんです」