豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「もちろんわたしも、皆川さんに犠牲を強いていることは分かっています。なので、一つご提案があるんです」


志賀は優しく微笑む。


「今のお仕事、確かにやりがいはあるでしょうが、独り立ちするのは難しい。今もバイトと掛け持ちされてますよね」
「……」
「ちょっと小耳に挟みましたが、塾講師の仕事を本業にすることも検討されているとか。皆川さんはいい作品を書きます。辞めてしまうのはもったいない」


光恵は黙って聞き続ける。


「秋からの深夜ドラマの帯を、うちの事務所が押さえています。主役は去年の公開オーディションでグランプリを取った、十七の男の子」
「……」
「そのドラマの脚本を、書いてみませんか?」


光恵はうつむいたまま、何も言えないでいる。
頭の中は、志賀の言葉がぐるぐると渦を巻いている。


「誤解しないでいただきたいのは、この申し出は誰にでもするものではない、ということです。脚本家として有望な皆川さんだから、しているんです。お分かりになりますよね」


志賀は満足そうな笑みを浮かべると、カップのコーヒーを飲み干した。


「無理強いではありません。決断は皆川さんがしてください。人生は、自分の選択で決まるんですよ」


そういって、志賀は喫茶店を後にした。


光恵は座ったまま、冷めたコーヒーを見つめる。


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