豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
稽古場につくと、リハーサルの準備が始まっていた。今日は、衣装をつけ、メイクをし、本番さながらに演ずる。
光恵は皆の邪魔にならぬよう、稽古場の壁にもたれて急がしそうな劇団員を眺めていた。見ると、稽古場の一角にカーテンで仕切られて作られたメイク室から、衣装に着替え、メイクをしたゆうみが出て来た。
短めのスカートから、まっすぐ細い足が伸びている。ウェイトレスのエプロンがよく似合っていた。長い髪はポニーテール、チークは健康的で甘いパールピンク。女性の光恵でも、思わず見てしまう、かわいさ。
ゆうみは光恵を見つけると、まっすぐこちらへ歩いて来た。隣に立ち、光恵と同じように、壁にもたれた。彼女がこちらを見ていることは、気配で分かる。でも光恵は彼女を見ることができなかった。
「光恵さん、孝志のこと、好きですか?」
ゆうみが静かに訊ねる。
「……以前は好きだった。でも今は、分からなくなってる。彼はもう、かつてわたしの好きだった彼じゃない気がする」
光恵は言った。
ゆうみはしばらく黙って、何かを考えているようだ。それからしゃべりだした。
「人は変化する。わたしたちの職業は特に。周囲が変化を強要するから。
孝志が『変わった』と光恵さんが思うなら、きっとそうなんでしょうね。
でも大事なのは、今の、孝志を受け入れて、愛せるかってこと」
ゆうみはちらりと光恵を見て、それから微笑んだ。
「わたしは今の孝志を好きです。気を張って、でも一生懸命、生きてる」