豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
幕があがる

1



どうでもいい。


もう何もかも、全部放り投げて、ポテトチップスをどか食いして、コーラの海で泳いで、泣いて、泣いて、泣いて、それで膨らんで、死んじゃえばいいんだ。


舞台三日前にも関わらず、最悪の仕上がり。台詞を口に出しても、それはただの言葉にすぎない。命がなくて、空をただふわふわと漂うだけ。志賀さんが眉間に皺を寄せて、溜息をついているのが見えたが、そんなの関係ない。


俺は、ミツを、失った。


どうして、俺はミツを失ったんだろう。
いや、そもそも、どうしてミツを手に入れたなんて、そんな勘違いをしたんだろう。


ミツは思い出なんかじゃない。
苦しい先に見える、未来だったのに。
俺が変わった? 変わらないよ。
前と変わらず、駄目な男だ。


「孝志、行くよ」
ゆうみが孝志の腕を軽く叩いた。


黒いバンの後部座席に、ゆうみと二人座っている。これから舞台の宣伝のために、インターネット動画サイトの取材を受ける。


『最悪ですから、見に来ないでください』


なんなら正直に、そうやって言っちゃえばいいんだ。お金をもらって見せるような、そんな芝居を、俺はできてない。
スーツにネクタイ。ヘアメイクをしてもらい、一見びしっとしてるけど、中身は失恋して泣いているデブの小学生。俺は昔から、駄目なやつなんだ。すぐ太るし、めんどうくさいことは大嫌いだった。


だからミツにも嫌われた……。

< 223 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop