豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
幕があがる
1
どうでもいい。
もう何もかも、全部放り投げて、ポテトチップスをどか食いして、コーラの海で泳いで、泣いて、泣いて、泣いて、それで膨らんで、死んじゃえばいいんだ。
舞台三日前にも関わらず、最悪の仕上がり。台詞を口に出しても、それはただの言葉にすぎない。命がなくて、空をただふわふわと漂うだけ。志賀さんが眉間に皺を寄せて、溜息をついているのが見えたが、そんなの関係ない。
俺は、ミツを、失った。
どうして、俺はミツを失ったんだろう。
いや、そもそも、どうしてミツを手に入れたなんて、そんな勘違いをしたんだろう。
ミツは思い出なんかじゃない。
苦しい先に見える、未来だったのに。
俺が変わった? 変わらないよ。
前と変わらず、駄目な男だ。
「孝志、行くよ」
ゆうみが孝志の腕を軽く叩いた。
黒いバンの後部座席に、ゆうみと二人座っている。これから舞台の宣伝のために、インターネット動画サイトの取材を受ける。
『最悪ですから、見に来ないでください』
なんなら正直に、そうやって言っちゃえばいいんだ。お金をもらって見せるような、そんな芝居を、俺はできてない。
スーツにネクタイ。ヘアメイクをしてもらい、一見びしっとしてるけど、中身は失恋して泣いているデブの小学生。俺は昔から、駄目なやつなんだ。すぐ太るし、めんどうくさいことは大嫌いだった。
だからミツにも嫌われた……。