豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「それは冗談ですよね?」
「いえ、本当の話です」


志賀が顔をしかめる。けれど孝志は話つづけた。


「大好きな人とキスする前に、仕事で他の人とは嫌でした。もちろん相手の女優さんが嫌だとか、そういうことじゃないですよ。誤解をしないでいただきたいんですが。なんというか、気持ちの問題で」
「わかります」
「でも、好きな人とどうやってキスしたらいいかわからなかった。向こうは自分のことをなんとも思っていないし。劣等感の固まりで、頭の中は小学生か中学生ぐらい。考えに考えた末、彼女に芝居の練習を手伝ってもらうってのはどうだろうと。どさくさにまぎれてキスできないかなあって」
「それは……ひどい」
記者が笑う。
「ですよね。格好悪すぎる。挙げ句にやっと彼女にキスしたら『下手』って」
「わあ」
記者が残念そうな顔をする。
「もうあがってこれません」
孝志は笑った。


「だからこの舞台の主人公は、僕そのもの。舞台上で彼が変わっていくのと同時に、僕も変わっていく。そんな気がしています」



記者はちらりとゆうみを見てから「その彼女とは、どうなったんですか?」と訊ねた。


「まだ片思い中です。格好悪い自分を隠したくて、彼女に今の自分を見せられなかったんです。でもそれじゃ、振り向いてはくれませんよね」
孝志は照れて、顔を赤らめた。


「中山さんは僕の相談に乗って、励ましてくれただけ。今回の報道で、中山さんに迷惑をかけてしまいました。悪かったね」
ゆうみを見て、孝志は言う。


「いいよ、友達だもの」
ゆうみはにっこりと笑い返した。


「その彼女に思いが通じるといいですね」
記者が微笑む。


「はい」
孝志は頷いた。

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