豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
2
初日。
劇場の前には、開場を待つ観客達がいる。皆、期待に胸を膨らませているようで、笑顔が多い。
光恵はその光景をぼんやりと見続ける。
泣きすぎた。
泣きすぎてカラカラに乾いて、今は干物みたいになっている。
昨日、三池から電話がきた。「ミツ、明日、何時これる?」そんな電話。本当は行きたくなかったけれど、そんな訳にいかない。「幕前、少しだけ楽屋に顔を出します」そういった。
「ミツびっくりするぞ。孝志が土壇場で持ち直したんだ。ほっとしたよ。やっぱりあいつはすごいな」
三池はうれしそうにそう報告した。
「そうですか。ほっとしました」
光恵はそういって、電話を切った。
志賀の言ったことは、本当。
光恵に執着することをやめたら、役者である自分に戻れたんだ。
よかった。本当に。
でも涙が止まらない。
「ミツが大人になれって言ったんだ」
確かに言った。そうやって、彼を追い返した。
でも帰って来た彼は、光恵の知る人ではなくなっていた。
楽屋口の脇、窓際のベンチに座って、光恵は深いため息をついた。