豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
舞台のエンディングが近づく。
ゆうみがそっと光恵の側に来て、小声で話しかけた。
「あの夜、わたしは孝志にキスをして、抱いてって言ったわ」
光恵はゆうみの顔を見た。
おかしくてたまらない。
そんな顔だ。
「孝志が突然両腕をあげたの」
「?」
「何してるの?って聞いたら……」
ゆうみが笑いを堪えるように、口を押さえる。
「へんなとこ、さわっちゃわないようにって」
ゆうみが言う。
「そのまま逃げて、トイレから朝まで出てこなかった。ストーカーが心配だから帰る訳にはいかないけど、ゆうみに触る訳にいかないからって。わたし、朝までトイレを我慢したのよ」
ゆうみがさもおかしそうに、お腹をかかえる。
光恵もつられて、笑い出しそうになった。
「すごい、格好悪い。断るにしても、スマートさに欠けるわよね。でも、そんな彼が好き」
ゆうみが光恵を笑いながら見る。
「光恵さん、わたしの話を、今度は信じてる」
「ゆうみさん……」
「信じれば、それが真実」
ゆうみが言った。
幕が下りる。
舞台照明が落ち、孝志が袖の奥に立つ光恵を見て、笑顔を見せた。
彼が大好き。
光恵は涙で濡れた頬を手で拭って、それから孝志に笑い返した。