豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
どうしたんだろう。
いや、理由は分かってる。
舞台に孝志がいないから。
思えば、光恵は舞台を飛び回る孝志を想像して、これまで作品を書いて来た。彼が輝くように、彼が引き立つように。主人公のキャラクターは、彼のふとした仕草や、言葉からヒントを得ていた。
孝志の抜けた今、どうやって作品を書けばいいのか、さっぱりわからない。
光恵は再びビールを飲んだ。おいしくもなんともない。
テレビでは、これから始まるドラマの予告が流れている。孝志が「ご期待ください」と光恵に話しかけた。
誰だこいつ……。
そこに「ピンポーン」とチャイムの鳴る音がした。
アマゾンかな?
今日届くって言ってたかも。
光恵は「はあい」と声をあげて、玄関の鍵を開けた。
「ミツ、久しぶり」
大きくふくらんだ男が、手をあげた。
光恵は眉間に皺を寄せて、その男をまじまじと見る。
帽子を深くかぶり、眼鏡をかけている。
頬はまあるくふくらんでいて、その手はまるでクリームパンのようにふかふかしている。
誰? このデブ……。