豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
自動販売機が近づいてくる。光恵は無意識に身構えた。
孝志は自販機が近づくとスピードを緩める。
「コーラが飲みたいよお」
「コーラ? コーラゼロなら飲んでもいいよ。毎日は駄目だけど」
光恵がそう答えると「は? 何いってんの」と孝志が振り返った。
「コーラゼロは、コーラじゃない。コーラのあの甘さ、まろやかさ。ぜんぜん違う代物だよ。ミツはなんも分かってないんだな」
孝志は光恵を鼻で笑った。
光恵は冷たいまなざしで孝志を見返す。
「じゃあ、コーラは絶対に飲んじゃだめ。脇見しないで、走って」
孝志はふてくされたような顔をして、再びスピードをあげた。
「そういえばさ、俺のポテトとファンタ、一ヶ月後に返してくれるんだよね」
孝志は「おもいついた!」というように、顔を輝かせた。
「……たべちゃった」
光恵が言うと、孝志は驚いたような顔で、再び振り返った。
「なんで!!? 俺のだろ?!」
「だって、もう、一年だよ?」
光恵がそう言うと、孝志は黙った。
「そっか、もう一年もたっちゃったんだ」
孝志は小さくそういって、再び無言で走り出した。
今度は最後まで、無駄口をきかなかった。