豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


案の定、誰にも気づかれなかった。


「あんまり人もいなかっただろ?」
孝志は口惜しそうな顔をして、それから水を一口のんだ。


「女子校の前、通りましたけど」
「まだ人もまばらだったし、それにもしかしたらみんな気づいたけど、騒がなかっただけ、とか」
「言ってなさいよ」


孝志がシャワーを浴びている間、光恵は留守の間の野菜弁当を作る。今日は朝からバイトが入っているからだ。ずっと孝志を見はっていられないのは気になるけれど、こればかりは仕方ない。孝志の意思の強さを期待するしかない。


できたて肉まんのような孝志が、洗面室から出て来た。Tシャツに短パンだ。


「これ、お昼に食べて。夜には帰ってくるから」
光恵が言うと、「えー」と孝志が眉間に皺を寄せた。


「ミツ出かけちゃうの?」
「バイトあるんだ」
「えー、えー、えー、えー」


孝志はドンドンと足踏みをして、抗議をしてみせる。


「わたしにはわたしの生活があるの。今、新しい脚本も書いてるし、明日はオーディションもあるから稽古場に行く。ずっと孝志をかまってはいられないの!」


光恵は外出の支度をしながら、孝志にそう言った。


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