豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
あ、意外と、たくましい。
男子だ。
孝志の胸にむぎゅっとつぶされながらも、ちらっとそんな風に思って、光恵は思わず赤面した。
孝志は光恵を解放すると、そのキャンディチーズを愛おしげになでる。
どんだけチーズを食べたいんだ。光恵は少々呆れた。
すると売り場の棚の向こう側から、ひそひそ声が聞こえた。
「ねえ、今見たんだけど、牛乳売り場にいる男の人、めっちゃ、佐田孝志に似てる」
「ええ? マジ? 見に行こうかな」
光恵と孝志は思わず、顔を見合わせた。
「ヤバイ、帰ろ」
孝志が小さな声でささやいた。
光恵も頷いてレジへ行こうとしたが、通路から二十代前半の女の子がこちらをのぞいているのと、目があってしまった。
女の子はあわてて頭を引っ込める。それから割と大きな声で「違うってば、もうびっくりさせないでよ!」と聞こえた。
「似てるって言っただけじゃん」
「似てもないって。あんなデブじゃあないよ、佐田孝志は」
「ま、そうだよね」
「ホンモノは、もっとシュッとしてて、セクシーなんだよ。隣のあの人、顎ないじゃん」
光恵が孝志の顔を見上げると、唇を尖らせて憮然としている。
「顎、あるよぉ」
「まだまだだね、孝志くん」
光恵は慰めるように、孝志の肩をぽんぽんと叩いた。