豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「俺、どこにも行ってないよ。あのアパートの階段のとこに座ってた」
孝志は二階へあがるための外階段を指差した。一階の光恵の部屋の扉からは、ちょうど見えない位置。
「ええ!!!」
光恵は一気に力が抜ける。わざわざ駅前まで探しに行ったのに、なんてこと……。
「ゴメンよ、ミツ」
孝志は申し訳なさそうな顔をした。
光恵は深く溜息をついて、疲れた顔で孝志を見上げた。
「なんでそんなところに。早く帰ってくればいいものを」
「だって……ミツ、忙しそうだったし。仕事に集中したいのかなあって」
孝志はそういうと、再び「ごめん」とつぶやいた。
光恵は身体の力が抜ける。
そうか。
気を使わせちゃったんだ。
「こっちこそ、ごめん。孝志は部屋にいていいんだよ」
光恵はそう言って謝った。
孝志はうれしそうな顔をする。そこでふと、孝志が何かを口に入れていることに気づいた。口がもごもご動いている。