豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「今日の夜、マネージャーが迎えにくる」
孝志はコーヒーにストローをさすと、一口飲んだ。
「そう」
光恵は頷いて、砂糖を入れる。
「長い休暇が終わっちゃったな、明日からまた休みなし」
孝志が肩をすくめて笑った。
ゆったりとした時間。
思えば、こんな風にのんびりと二人で過ごすのは始めてだ。
光恵がカップに口をつけると、「もしかして……」という小さな声が耳に入った。見ると、二つとなりの席に座る一組の女性客が、ちらちらとこちらを見ている。
「あ、ばれた」
孝志が笑みを浮かべる。「ほらみろ」というような、自慢げな表情。
「痩せたからね」
光恵も笑みを返した。
「ミツが有名女優じゃなくて、よかった」
「あ、今、わたしのことけなしたでしょ」
「ちがうよお」
「噂にもならないって、安心したくせに」
「……ミツは、やっぱりわかってない」
二人組が、意を決したように立ち上がり、こちらに向かって来た。
「あ、まずいな」
孝志はそうつぶやくと、光恵に「先帰って」とささやいた。
「なんで?」
「騒ぎになるかも、危ないから、帰って」
孝志は急いで光恵に席を立たせた。
光恵が振り返ると、少し店内がざわつき始めていた。周りに座っていた他のお客達も「え? 誰?」と孝志の方を見ようと身体をのばしている。
先ほどまで一緒にいた、同期の友人はいなくなっていた。
テレビで見たことのある、有名人が一人。
光恵は孝志に背を向けて、まっすぐ店内から出て行った。