豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「彼には、飛躍してほしいから……お分かりになっていただけますよね」
「……はい」
志賀の言わんとすることがわかった。彼女は正しいことを話している。光恵が孝志を助けてはいけないのだ。
志賀は黒い皮鞄から、封筒を取り出した。
「これは、この一ヶ月間、佐田がお世話になった分です」
「……いえ、いただけません」
光恵は差し出された封筒を志賀に押し返したが、彼女はそれを無視して立ち上がった。
「中に、来週公開する、佐田の映画のチケットも入っています。もしよろしければ、皆川さんの大切な方と、ぜひ見に行って下さいね」
「……」
光恵は立ち上がり、玄関で靴を履く彼女の後ろ姿を目で追った。
「これからも、彼のファンでいてあげてください。よろしくお願いいたします」
志賀は扉を出て、深く頭を下げた。
扉の閉まる音。
静かな部屋。
光恵は力が抜けて、再び椅子に座り込んだ。
彼女は正しい。
それは分かってる。
でもなんでだろう。
すごく悲しい……。
光恵は力なく立ち上がると、冷蔵庫を開けてキットカットを取る。
そして、再びその甘く、苦いチョコレートをかじった。