豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


孝志はしばらく黙った後、「わかった」と小さく答えた。


光恵は無言で玄関の扉を開け、出て行くよう促した。孝志は素直に背を向けて、部屋を出て行く。その背中を見ながら、光恵はなぜか泣きそうになった。


どうしてこんな気持ちになるのかわからない。
すべては孝志のためなのに。


廊下の半分まで歩いていた孝志が、突然振り返った。
早足で光恵の元に戻ると、腕を引っ張る。


気づくと孝志の胸の中に入っていた。
薄手のカーディガンの下から、いつもよりもリズムの早い心臓の音が聞こえる。
かいだことのない、コロンの香り。


孝志は、光恵の唇の脇に素早くキスをすると、耳元で「じゃあね、ミツ」とつぶやいた。


まるで突き放すように光恵を解放すると、光恵の顔を見ようとせず廊下を歩いて行く。


やがて彼の背中は、夜の住宅街へと消えて行った。

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