豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「もう、お二人にはお会いしたことがあるので、ご挨拶は省かせていただきますね」
カシミアのブルーのカーディガンがよく似合っている。自分がどのように見えるのか、充分に計算しているように思えた。
「早速読ませていただきました」
志賀がテーブルの上に載せた脚本に手を置いた。
「とても面白かったです」
光恵はその言葉を聞いて、ほっと息をはいた。
「佐田のこれまでのイメージを払拭するような、新しい挑戦になると思います。彼は今まで、女性を魅了する、そんな役を立て続けにしてきたので、こんなにかっこうわるい役……」
そこで志賀はくすっと笑う。
「格好悪くて、でも魅力的な人物像ですね」
志賀は光恵に視線を移す。なぜかその目は笑っていないように感じた。
気のせい?
「大筋はこれで結構です。事務所的にも問題ありません」
「はい、ありがとうございます」
三池が答えた。
「ただ……」
志賀が少しまじめな顔で続けた。
「ここからはお願いになるんですが……登場人物にウェイトレスがいますよね」
「はい」
「この脚本の中では、シェフがこのウェイトレスを気にしていることは分かるのですが、踏み込んだ描写はありません。このウェイトレスの扱いも軽い」
「……そうですね」
三池が慎重に頷いた。