豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「ああ、そりゃ駄目だ」
光恵はお手上げ、というポーズをした。


「今回の舞台は、ハードなダンスシーンもあるし、断食で痩せても倒れるだけ。加えて、健康的な肉体を観客に見せてほしいのよね。ぷよぷよがしぼんで、ぺらぺらっていう身体は却下。とにかく今日は帰って、身体にいいもの食べなさいよ」


「帰れない。僕はもう二度と家には帰れないんだあ」
孝志はそういうと、芝居がかった調子で、床につっぷした。


「なんでよ」
「家に食べてないポテトチップスが一袋ある。家にいたら、絶対食べちゃう。ヤバい」
「……それは、気持ちの問題で……」
光恵が言いかけると、孝志はがばっと身体を起こして、鋭く光恵を睨みつけた。


「ミツは痩せてるから、わかんないんだ!!! ポテトチップスのうまさを!!!
絶妙な塩と油!
あの誘惑を拒否できるデブがいたら、会ってみたいよ!!!!!」


「ご、ごめん」
あまりにも必死な形相で言うので、光恵は思わず謝ってしまった。


「わかった……じゃあ、今から孝志の家にいって、わたしがポテトチップスを預かってあげる。公演終了後に返すから。それでいい?」


「うん」
孝志は頷くと、まんまるほっぺにくぼみを作って、にっこりと笑顔になった。


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