てのひらの温度
自主的に瞳を塞いで、はたと気付いた。私が寝ている間にお金を盗まれて逃げられかねない。
重力に負けそうな瞼をこじ開け、通帳と財布とパスポート等が入った袋を鞄から引っ張り出す。そしてその袋を上着の内側に入れて、しっかりと腕を組んだ。
「慎重だね」
少年は苦笑いだ。
「当たり前でしょ」
私は冷たく言い放ってからもう一度目を閉じた。すっと眠りに堕ちてゆく。何かを考えようとする間もなく、意識は止まった。
―――…‥
「…タ、ウタ」
「うー…」
肩を叩かれて目が覚めた。眠りから抜ける瞬間はどうしても好きになれない。故に、私の寝起きの悪さは天下一品だ。自他共に認める。
「終点だってさ」
まだぼやけた視界に、少年のあどけない表情がアップで飛び込んでくる。