てのひらの温度
「うるさいな、わかってるよ」
「いやいや、寝てたじゃん、ウタ」
「がたがた言うな。荷物持て」
「早速パシリですか」
ぶつぶつ言う少年を他所に、私は億劫に立ち上がる。上着の内側から、寝る前に仕舞った袋が落ちた。彼が拾うそぶりを見せたので、無視して先にホームに上がった。
振り返ると、ぺしゃんこのスポーツバックを斜めに掛けて旅行鞄を左肩に提げ、右手には袋を握った少年。立ってみると意外に背も高く華奢だ。彼の身体の面積より荷物の面積の方が多いくらい。滑稽で笑えてしまう。
「ちょっと重いんだけど」
「働け若造」
年季の入った看板が目の端にある。着いたのは南北山という駅だった。全く、南なのか北なのかはっきりしてほしいもんだ。
どうやらエスカレーターはないらしく、これまた歴史のありそうな階段を一段ずつ上る。少年は荷物を抱えながらも軽々とついてくる。若いって素晴らしい。