てのひらの温度

抜け出したいって何度も思った。この気持ちが衝動の正体かもしれない。まだ、よく自分でもわからないけれど。


「ウタはさ、今日どうすんの。この辺に泊まるの?」

「うーん、今何時?」

「五時半近い」


紺はテーブルの端に置いてあった携帯を見て言った。よくよく見ると細かい傷がたくさんある。扱いぶりがうかがえるなあ、と思った。


「じゃ、今日は疲れたし、そこらのビジネスホテルにでも泊まる」

「もちろん俺も一緒だよね」


満面の笑顔を向けてくる。有無を言わさない押し付けの笑みだ。意識的なのか無意識なのかはわからないが、紺は表情で相手を訴える術を知っている。侮れたもんじゃない。
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