てのひらの温度

私は何を求めて会社まで辞めて家を飛び出したのだろう。何を手に入れたいのだろう。

全てが嫌になったんだ。空っぽにされるくらいなら、してやりたかったんだ。私の為の酸素は、昨日まで私のいた場所にはなかった。冷たくて、吸うだけで凍えそうな二酸化炭素だけが、ふよふよ浮いていたんだ。



どれくらい経ったのだろう。ラフな服装に着替えた紺が、さらに両手に荷物を抱えて戻ってきた。

青いTシャツに黒のパーカーを羽織り、ダメージ加工のジーンズを履いている。足元のスニーカーは変わっていなかった。


「ちょうど閉店セールしてて安くて。3万くらい使ったかも」

「へぇ。ま、なかなかいいんじゃない」


ラフなのに制服姿より大人っぽく感じる。飾り気のない髪も、私服に合わせるとわざと作ったような無造作ヘアーに見えなくもないから不思議だ。

これなら連れて歩いても大丈夫だろう。年下の彼氏にでも思われるのかな。おもしろいな。
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