てのひらの温度
店を出て駅周辺をぶらつく。コンビニと同じで、いざ探そうという時に限って、ホテルってもんは見つからないらしい。
手書きの値札が並ぶスーパーだったり、買い物帰りの主婦が短い列を作る団子屋だったり、今にも傾きそうな居酒屋だったり、用もない店ばかり。中途半端な駅だからかもしれない。
「あ、発見」
日が落ちてきた頃、紺が遠くを指して声を上げた。
指の先にあった建物にはたしかにホテルと書いてあるけれど、明らかに目的が違う。まださほど暗くもないのに、ちゃっちいピンク色のネオンがちかちか輝いている。玩具みたいな安っぽい塗装は禿げ放題だ。
「そうゆうつもりなら帰ってくれる」
「いや、ほんと、変なこと考えてる訳じゃなくて。ただこれ以外ないかなーと…」
私がどぎつく睨むと、紺は首をぶんぶん振って否定した。物凄く焦っている。
「今何時?」
「もうすぐ7時」
「じゃあもういいよ、あそこで」
「えっ」
慌てふためく紺を放って、私はちかちか光る看板に向かって歩き始めた。
旅って疲れる。それに早く眠りたい。シャワーがあってベットがあればもうどうでもいいや。紺には意地悪したけれど、初めからラブホだろうが何だろうがいいと思っていた。
後ろから紺がぱたぱた追いかけてくる足音がした。