てのひらの温度

さっぱりとして部屋に戻ってもなお、紺は微塵も動いていなかった。


抓りたい。おかしな衝動が吐き気にも似た状態で沸き上がる。変なの、私。でも理性を封じ欲望に従う。

ニキビひとつない焼けた頬を思い切り抓る。肉厚でおまけに弾力があって、親指と人差し指ではどうも掴みにくい。そのまま可能な限り引っ張った後、ぱちんと離した。欲望がさっと満たされ消えてゆく。紺は一瞬顔を歪めたが、起きることはなかった。


今、どうして抓ったのか、と聞かれても私は困り果てるだけだろう。だって本当にわからないのだ。ただ、抓りたかったんだ。この突発的な旅と同じこと。


愛しい訳はないし、だからといって憎い訳でもないし。強いて言うなら生理的欲求に近い。私いよいよ本当に狂うのかな。なんなんだろう。なんでこんなにわからないことだらけなんだろう。
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