てのひらの温度
「今日どこ行くの?」
化粧をしていたところへ、ようやくぱちりと目を開け話しかけてきた。頭は覚めたようだが、まだ床に転がったままだ。
「出てから考える」
「いいね、放浪の旅っぽくて」
「いいから起きてよ」
つっけんどんに言うと、やっと起き上がった。四方八方に寝癖がついている。すると、優越感たっぷりの表情でこっちに近付いてきた。
「ほらね。俺、ウタになんにもしなかったでしょ」
「だから何」
「ちょっとは信用してよ、俺のこと」
「米粒くらいならね」
「少なっ」
米粒、と言ったことに他意はなかったのだけれど、同時に目に入った紺の髪型が発芽米みたいで、妙に笑えてしまう。右耳の上の髪が一束ぴょこんと撥ねているのだ。でも、わざわざ突っ込むこともないか。敢えてそのまんまにしてやろうっと。