てのひらの温度

ホテルを出ると、外は突き刺すような日差しに溢れていた。どうやら部屋は北側だったらしく、こんなに暑いだなんてちっとも気付かなかった。まだ九時でここまで暑いとなると、その先が目に見えるよう。


「どうすんの?」

「知らないってば。ぐだぐだ言うならついてこなくていい」

「そんなこと言ってないのに」

「ふん」


今日の紺は、半袖シャツにネクタイ、ベストでホスト姿を想像させる。でかい欠伸をしていることを除いて。


「あ、これ」


駅まで戻ってきて、私はあるものを発見した。長距離バスのバス停。行き先はここからさらに下った隣県だ。たしか温泉が有名で、観光名所にもなっていたはずだ。

夜行だけではなくて、昼間にも長距離バスってあるんだ。乗る人いるのかな。平日だし、見渡す限り荷物を持った人どころか人すらあまりいない。

朝のラッシュを終えた駅は、静かに休息をとっている。


「あと三十分後に発車だって」

「よし、これに乗る」

「え、まじで」

「乗る」


こうして、私たちの次の行き先が決まった。

旅はまだ、始まったばかりだ。
< 29 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop