てのひらの温度
ホテルを出ると、外は突き刺すような日差しに溢れていた。どうやら部屋は北側だったらしく、こんなに暑いだなんてちっとも気付かなかった。まだ九時でここまで暑いとなると、その先が目に見えるよう。
「どうすんの?」
「知らないってば。ぐだぐだ言うならついてこなくていい」
「そんなこと言ってないのに」
「ふん」
今日の紺は、半袖シャツにネクタイ、ベストでホスト姿を想像させる。でかい欠伸をしていることを除いて。
「あ、これ」
駅まで戻ってきて、私はあるものを発見した。長距離バスのバス停。行き先はここからさらに下った隣県だ。たしか温泉が有名で、観光名所にもなっていたはずだ。
夜行だけではなくて、昼間にも長距離バスってあるんだ。乗る人いるのかな。平日だし、見渡す限り荷物を持った人どころか人すらあまりいない。
朝のラッシュを終えた駅は、静かに休息をとっている。
「あと三十分後に発車だって」
「よし、これに乗る」
「え、まじで」
「乗る」
こうして、私たちの次の行き先が決まった。
旅はまだ、始まったばかりだ。