てのひらの温度
景色を眺めているのはさほど退屈ではなかった。よくよく見ると、景色の流れる速度は遠くのものと近くのもので大きく異なる。新しい発見だ。
少ないとは思っていたけれど、予想を遥かに超え、乗客は私と紺の二人だけだった。途中で何ヶ所か停車するらしいが、まだ停車地点には至っていない。
もう一時間は走っただろうか。紺は初めは窓の外を眺めては、ぺちゃくちゃ話しかけてきたが、飽きたらしく携帯を弄り出している。横目で見ると、ゲームか何かをしているらしい。
そういえば、アノヒトはやたらめったら自然に詳しい人だった。押し付けがましくカレなりの独自の自然論を聞かされたこともしばしばだ。
今頃どっかの女と上手くやっているのだろうか。想像してみても、不思議なくらいどうとも思わない。それなりに好きだったけれど、きっとそれなりの域を超えることはなかったんだ。