てのひらの温度
Sec.4 サガシモノ
「ひとつ聞いていい?」
なんとなく沈黙が続いていたが、座席がだんだんと埋まってきた頃、再び紺が口を開いた。時刻は正午を回り、一時になろうとしている。
「嫌」
「え」
「嘘。いいよ、聞いて」
さっきから後ろの席のOLらしき二人組の話し声がぺちゃくちゃとうるさい。課長がうざいだの、イイ男がいないだの、よくもまあ話が続くもんだ。
「仕事も辞めて、携帯も置いてきて、ウタのこの旅の目的は何?」
…目的、ね。そんなのむしろ私が聞きたいくらいだよ。あったらとっくにそこに向かってる。
「なんだろうね」
「“自分探しの旅”とか?」
「勝手に安っぽい名前付けないでくれる」
「俺そうゆうの好き」
「あ、そう」
自分探し。って、一体なんだろうね。そもそも見つけなくちゃいけないものなの。それ以前に見つかるものなの。
そんなことを考える前に人生が始まってしまうから、後になって混乱してしまうんじゃないか。見切り発車もいいところだ。
やり直したいとは思わない。でも、壊したいとは思う。