てのひらの温度
駅前のバス停に到着した。終点だ。辺りはもろ観光地、といった様子。同じような土産屋が軒を連ね、キャッチコピーらしい幟が幾つもはためいている。同じバスに乗っていた人々は皆感嘆の声を上げ、またはうっとりと目を閉じ、めいめいの行き先へ消えていった。
残されたのはおかしな二人組、私と紺だ。
「温泉の町?」
「見ればわかるでしょ」
「なんで女って温泉好きなの」
「別に私は好きじゃないけど」
「じゃあなんで来たの」
「理由なんてないよ」
全てのあらゆる事象に筋の通った理由が貼られるなら、どんなに楽だろう。いちいち悩む必要もないし、無意味に溺れることもない。土を掘り返して、在るのかもわからないモノを探すような労力を搾り出すこともない。
例えば、そんな世界が訪れたとして。私が生まれた理由には、どんな言葉が並べられるのだろうか。笑える程にひとつも言葉が浮かばなくて、溜め息が漏れた。
「でもせっかく来たんだから、温泉入ってこうよ」
「それもそうね」
「その前にコンビニ入っていい?」
「どうぞ」