てのひらの温度
紺に続いて土産屋の列のはじに在るコンビニに入った。観光地といえど、全国チェーンのコンビニがあるんだから可笑しい。だけどそれよりも可笑しいのは、紺が横にいるこの状況に慣れている自分だ。違和感なんて微塵も感じなくなっている。
店内もごく一般的で、一角に土産コーナーがあること以外は何の変哲もない。紺がドリンク棚の前をうろうろしているので、私は買うつもりのないお菓子を手に取ってみたりする。
「ひゃあっ」
驚きと恐怖が混じった悲鳴が聞こえて、商品を置いて振り返る…いや、振り返る必要はなかった。首を右に向けたところで、一瞬で、悲鳴の理由がわかったのだ。
「騒ぐなっ、おとなしくしろ!」
がっしりとした体型の中年男が、左腕に30代半ばと思われる女性の首根っこを捕らえている。右手には果物ナイフと思しき刃物が握っている。そして、その刄先は女性の顔の前をちらついていた。
まるで現実感がない。タテコモリ。頭の中で繰り返しても、一向に飲み込めない。小さい頃錠剤を飲むのが苦手で、何度も水を口に含んでみても、いつも水だけ飲んでしまって薬だけが残った。その感覚に似ている。