てのひらの温度

「こんなことするつもりじゃなかったんだ」


へなへなになったのは体も同じだったようで、男は女から腕を離すと、ナイフの刄を折り畳み、ぺたんと座り込んだ。二回りくらい縮んでみえる。

三流の二時間ドラマを見ている気分だ。冷めた目で眺めている。酷くつまらない。


「ごめんなさい」


謝ったのは、ナイフを突き付けられていた女の方だ。しゃがんで男に寄り添い、手を握ったりなんかしちゃっている。


「僕が悪いんだよ」


男は女を見つめて瞳を潤ませた。白ける。これから私の一番嫌いなタイプのストーリーが繰り広げられるのだろう。極限まで美化した言葉が飛び交うはずだ。おおよその検討はつく。やってらんない。別に真実を知りたいだとも思わない。

私がようやく店を出ようとしたとき、入れ違いに警察が店に突入した。きっと外から見ていた誰かが通報したのだろう。男の手には手錠がかけられ、女は悲しみに明け暮れる。陳腐で笑える。


「はははっ。かなり笑える。湯煙温泉なんちゃらってタイトルが付きそう」

「欝陶しい」

「絶対あれ、痴情のもつれ、ってやつでしょ。不倫てとこだな」

「どうでもいいよ。嫌いなの、ああいうの。苛々する」
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