てのひらの温度

一人きりになっても、まだ大の字のまま仰向けに固まっていた。

天井をずっと眺めていたら、木目が人の顔やらなんやらに見えてきて、すごく気持ち悪くなった。

内臓が洗濯機に回されているかのように、ぐるんぐるん回る感触がする。


生きる、ってなんだろう。
今の私は生きてるって、言えるのかな。

心臓が鼓動を刻むのだって、胃が食べ物を消化するのだって、私の意思ではないのに。

勝手に動いて、勝手に生命維持活動をしてくれているだけ。

生きてる、を感じたい。私はもっと、自分が生きているのだと、強く信じたいのだ。

もどかしい。瞼を閉じても、瞼の裏の毛細血管が見えないもどかしさ。





* * * * *


「咏」

あの人はいつも上手に私を呼んだ。

上手に、というのは、名前に巧みに感情を混ぜ込めるということだ。機嫌のいいとき、悲しいとき、怒ってるとき、それは声の周波数や音程や速度に反映される。

名前を呼ばれただけで、今日は気を遣わなくていいな、とか、ああ今日はあんまり刺激するとだめだな、とかわかる。


「なに?」


だけど、私はいつもあなたの気持ちに気づいていない振りをして、“いつも通り”をつくる。

これは彼に限ったことではなくて、癖みたいなものだ。私はいつもいつも、水芦咏をつくっている。


「咏」


その原因は、たぶん。





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