てのひらの温度

紺の買ってくれた幕の内弁当に手を伸ばす。冷めているけれど、美味しい。


「ねえ」

「なに」

「ウタの両親ってどんな人?」


もう話は終わったと思っていたのは私の方だけだったみたいだ。紺は携帯を閉じて、まっすぐ私を見た。


「どんなって、普通だよ」

「例えば何の仕事してるとか」

「父親は貿易関係の会社のサラリーマンで、母親はピアノの先生」

「兄弟は?」

「姉がひとり」


だし巻き玉子が口の中でほどける。何も思い出させることのない癖のない味付けに安心する。


「なんで急にそんなこと聞くの」

「なんとなく」


すると、紺は後ろに倒れ、畳に大の字になった。細っこい腕が至近距離に伸びる。


「俺さ」


何か、大切なことが切り出されているのだと、刹那にわかった。空気が息を潜めて続く言葉を待っている。
< 52 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop