てのひらの温度
紺の買ってくれた幕の内弁当に手を伸ばす。冷めているけれど、美味しい。
「ねえ」
「なに」
「ウタの両親ってどんな人?」
もう話は終わったと思っていたのは私の方だけだったみたいだ。紺は携帯を閉じて、まっすぐ私を見た。
「どんなって、普通だよ」
「例えば何の仕事してるとか」
「父親は貿易関係の会社のサラリーマンで、母親はピアノの先生」
「兄弟は?」
「姉がひとり」
だし巻き玉子が口の中でほどける。何も思い出させることのない癖のない味付けに安心する。
「なんで急にそんなこと聞くの」
「なんとなく」
すると、紺は後ろに倒れ、畳に大の字になった。細っこい腕が至近距離に伸びる。
「俺さ」
何か、大切なことが切り出されているのだと、刹那にわかった。空気が息を潜めて続く言葉を待っている。