てのひらの温度


「邪魔なんだ」


ただ上に長いだけの、筋肉の薄い未発達の身体。男と呼ぶにはいささか遠いこの少年も、何かを抱えているのだ。会って間もない私にしか放せないような何かを。

私は応えることはしなかった。きっと“会話”をしたいのではない、“聞いて”いてほしいだけなのだとわかるから。


「いない方がいいんだ。俺なんか邪魔だって思ってるくせに、ずっと電話が鳴り止まないんだ。苛々する、吐き気がする」


ワタシハ、イラナイコ。

小さな声が遠くで聞こえる。


「妹いるって言ったじゃん、ハラチガイだって。ちっさいときに親離婚して親父に引き取られて。んで親父が……あ、もう五年近くになるのか。まあそんくらい前に再婚して、さ。今三歳の妹がいるんだ」


紺の話は止まらない。塞き止められていた水が一気に吹き出るように、制御の利かない壊れた機械みたいに、次から次へと言葉が溢れる。


「お義母さん、優文(ユフミ)さんってゆうんだけど、いい人だしさ。再婚も反対なんてしなかったし、優文さんも俺のこと本当の子どもみたいに接してくれて。変な遠慮とか、なかった。……うん、なかった、と思うんだよ、初めは」


私はもそもそと箸を動かす。ひとつひとつ、ゆっくりと噛み砕いて、飲み込む。
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