てのひらの温度

南側の大きな窓から差し込む金色の光、夕方にはまだ遠い。部屋は電気を付けずとも充分に明るくて、それがどこか切ない。


「結婚する半年くらい前から、ちょこちょこ一緒に飯食ったりしてて、それで正式に結婚してから一緒に住んで。そりゃあさ、ムカつくこともあるし、喧嘩したこともあるけど、そんなの、家族なら普通じゃん。俺はそこそこうまくやってると思ってたし、これからもっと家族になってくんだろうなって、思ってた」


ひとつひとつ、咀嚼しながら考える。紺の中には、あとどれだけ吐き出したい膿があるのだろう。こんな明るい陽に照らされて、膿はじわじわと溶けていく。

もっと家族になってくんだろうなって、思ってた。

思う、ではなく、思ってた。その些細な違いは私の胸に落ちる。


「一年半くらいして妹の梓(アズサ)が生まれて、赤ちゃんって関わるの初めてで、どう接していいかわかんなかったけど、俺なりに可愛がってたつもり。実際に可愛いって思ったし。そのうち梓が大きくなって、しゃべるようになってきて、“ママ”“パパ”って言い出してさ…」


来たことのない場所。会ったことのない人。知らないものの方が圧倒的に多いのに、知っているという方がきっと僅かな確率であるのに、私達は知っているものにだけ苦しめられる。

何も知らなければいいのに。知って苦しむなら、知らないままでいい。
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